研究概要 |
頭蓋早期癒合症(FGFR1、FGFR2)、軟骨形成不全症(FGFR3)、基底細胞母斑症候群(patched)、外骨症(EXT1,EXT2)、静脈異形性症(Tie-2)等の遺伝子診断を行った。その結果、遺伝子変異の位置(genotype)は臨床症状(phenotype)に密接に反映することが明らかとなった。たとえば、多発性顎嚢胞を有する基底細胞母班症候群(NBCCS)症例全てにptc遺伝子のexon8の1162番目の塩基アデニンのチミンへの変異が明らかとなった。しかし、顎嚢胞のないNBCCSではexon8の同部位に変異は存在しなかった。本結果はexon8のA1162T変異と顎嚢胞の発症が密接に関係していることを示唆しており、ptc遺伝子変異(genotype)と臨床症状(phenotype)との関連性を初めて明らかにした。さらに、37症例の静脈異形成症例中12症例にTie-12遺伝子のチロシンキナーゼ領域の変異を見いだした。1例ではG2646A変異によりGly833Asp置換が,他の症例では,A2659T変異によりGln873His置換が示唆された。G833D症例では平滑筋細胞の数は少ないが内皮細胞は比較的正常で、Tie-2、VEGF蛋白の高発現を示した。Q837H症例では内皮細胞数は極めて少なく周皮、平滑筋細胞は全く存在しなかった。これら変異Tie-2遺伝子をマウス内皮細胞に導入し、コラーゲンゲル内培養を行ったところ患者組織像と極めて類似した組織構築を示した。 これらの研究結果から、増殖因子-受容体系分子・遺伝子の異常は、癌のみならず種々の骨・軟骨形成異常や血管系異常、顎嚢胞などの顎顔面口腔異常を引き起こすことが示された。また、遺伝子変異の質的差異(genotype)はその組織像や臨床症状(phenotype)にも強く反映する可能性も示唆された。したがって、原因遺伝子を標的とした遺伝子診断はこれら疾患・異常の的確な早期確定診断に貢献するのみならず、将来の発育・発症予測、治療時期・方法の決定にも有用であることが強く考えられる。また、新たに明らかとなった変異遺伝子を標的細胞に発現させ、変異遺伝子の機能を検討することにより発症メカニズムの解明や治療法の開発にもつながると考えられる。さらに、顎変形症や唇顎口蓋裂などのように1遺伝子疾患ではなく複数の遺伝子群が関与していると考えられる疾患に対しても連鎖解析等を用いて原因遺伝子の存在する染色体上の位置を同定し、原因遺伝子群を明らかにする必要がある。(本研究計画で対象とした疾患・先天異常の遺伝子診断研究に関しては本学倫理委員会において既に承認済みである。)
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