研究課題
基盤研究(B)
本研究の目的は、種々の口腔粘膜疾患において疾患特異的なT細胞レセプター(TCR)遺伝子を同定し、その疾患特異的T細胞の存在を調べることで診断を可能にすることであり、以下のような研究成果が得られた。1)疾患特異的TCR遺伝子の同定病変局所からPCR法によるTCR遺伝子を増幅、サザンプロット解析、SSCP法により口腔扁平上皮癌、口腔扁平苔癬、シェーグレン症候群の疾患特異的TCR Vβ遺伝子の同定ができた。その後、疾患特異的TCR遺伝子のクローニングおよびその塩基配列の決定、限界希釈法による疾患特異的T細胞クローンの樹立を行っている。2)口腔扁平上皮癌患者の末梢血からの腫瘍関連抗原ペプチドに特異的なCTLの誘導HLA-A24陽性の口腔SCC患者50例で、末梢血単核球に13種類の抗原ペプチドを加えて培養し、誘導された特異的CTL活性を評価した。その結果、SART-1_<690>、SART-2_<93>、ART4_<75>に対して高頻度に特異的CTLが誘導できた。また、これらの抗原ペプチドに対して特異的CTLを誘導できた症例では、他の抗原ペプチドでも特異的CTLが誘導される傾向があった。一方、いずれの抗原ペプチドでも特異的CTLが誘導されない症例炉40%あった。3)口腔扁平上皮癌患者の腫瘍局所における免疫応答調節分子の発現HLA-A24陽性の口腔SCC患者の生検組織を用いて、腫瘍細胞およびTILによる免疫応答調節分子の発現を免疫組織学的に検討した。その結果、HLAクラスI抗原の発現の欠失はみられなかったが、腫瘍細胞によるCD80、ICAM-1、RCAS1の発現亢進がみられた。特異的CTLを誘導できた症例ではCD80とICAM-1の発現亢進が多く、誘導できなかった症例では腫瘍抗原であるRCAS1の発現亢進が多くみられた。RCAS1を発現する腫瘍細胞の周囲では浸潤するT細胞のアポトーシスが高頻度に誘導されており、腫瘍細胞の免疫監視機構からの回避に重要な役割を担っていることが示唆された。本研究では、口腔SCCの診断や経過観察にはSART-1_<690>、SART-2_<93>、ART4_<75>などを用いた検査が有用であり、さらにはこれらのペプチドは癌ペプチドワクチン療法にも用いることが可能であることが示唆された。ただし、これらのペプチドによるCTLの誘導能は症例によってかなり異なっており、腫瘍細胞の免疫原性や免疫監視機構からの回避の機序などについても検討していく必要があると考えられた。今後は、疾患特異的TCR遺伝子の同定を急ぎ、病変局所や末梢血中の疾患特異的TCR遺伝子を定量的に解析する検査システムを確立する予定である。
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International Journal of Cancer 108
ページ: 686-695
Journal of Oral Pathology & Medicine 32
ページ: 282-289