研究概要 |
歯周病原性細菌P.gingivalisの菌体表層構造物である線毛は,本菌の様々な病原性の発揮に関与している。本研究では、P.gingivalisの線毛遺伝子型と同菌の病原性との関連を明らかとし、患者プラーク中に生息するP.gingivalisの遺伝子型を判定し、歯周病診断に供する事を目的とし、さらに歯周病予防のためのDNAワクチンモデルを考案することを目指したものである。 我々は、P.gingivalisの線毛サブユニットFimA遺伝子(fimA)の塩基配列の違いに基づき線毛を5つの型(I-V型)に分類し、歯周炎発症とII型線毛をもつP.gingivalisとの臨床的相関を報告した。 次いで線毛型の差異がP.gingivalisの口腔内上皮細胞への付着・侵入に及ぼす影響について検討を加えた。I-V型リコンビナント線毛(rFimA)を蛍光ビーズに結合させ,共焦点レーザー顕微鏡によりヒト上皮細胞への付着・侵入を解析した結果、上皮細胞へのrFimAの結合実験ではII型rFimAが他のrFimAと比較して3-4倍量の付着を示し、細胞内への侵入も顕著であった.rFimAの上皮細胞への付着・侵入は、抗線毛抗体、抗α5β1インテグリン抗体により顕著に阻害された。P.gingivalis株ATCC33277(I型線毛),HW24D1(II型),6/26(III型),HG564(IV型),HNA99(V型)を用いた研究の結果、II型線毛遺伝子を保有する株は、30%と高い上皮細胞への侵入率を示したが、III、IV、V型線毛株の侵入率は2-5%であった。 II型線毛株はインテグリン直下のシグナル伝達分子であるpaxillin、FAXをリン酸化を強力に阻害すると共に、同分子を分解し、強い細胞為害性を示した。II型線毛株の線毛遺伝子欠損株を作製したところ、上皮細胞への侵入が認められなくなり、同時にシグナル伝達分子の分解も見られなくなった。更にKGP、RGPプロテーゼ欠損株を用いた検討の結果、II型線毛遺伝子を保有するP.gingivalisは線毛を介して口腔内上皮細胞への高い付着・侵入能を示し、細胞内において細胞シグナル伝達分子の破壊またはリン酸化の阻害により、歯周組織の破壊に強く関与していることが示唆された. これらの知見は,特定の遺伝子型を有するP.gingivalisが強い歯周病原性を発揮することを示唆しており、PCR法を用い患者プラーク中に生息するP.gingivalisの線毛遺伝子型を判定し、細菌因子の病原性判定への利用を可能とする。さらに、DNAワクチンの標的抗原として用いることにより、有効な歯周病ワクチンのモデルとして利用することが可能である。2001年に我々はDNAワクチン構築システム(Infect Immun,69:2972-2979)を報告している。このシステムにII型線毛遺伝子を組込み効果的なDNAワクチンモデルを開発すべく、現在、強力な抗原性を有する線毛タンパク領域の同定を進めている。
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