研究概要 |
コールドスプレーイオン源の開発の一環として,スプレー方向の低価数高質量イオン生成におよぼす影響について詳細に検討した.イオン加速方向と同方向へスプレーする従来型に対し,直交するスプレー軸を有する装置を新たに試作し性能を評価した.その結果,質量電荷比で紛3000を越えるイオンはスプレーと直角方向にイオンを取りだすことが困難であることがわかった.更に改良型として,生成したイオンを導く直交ガイドトンネルを装備した直交スプレーも試作し,性能を評価した.これによればm/z20000を越える1価イオンを観測することも可能であり,実用性の高いイオン源であることが確かめられた.現在,更に精密な温度の自動制御装置の開発を継続中である. 本装置を用いて従来,測定困難であった不安定金属錯体の他,DNA,糖,アミノ酸,ステロイド化合物,および脂質を含む生体分子の溶液構造について検討を行なった. 結晶中で水素結合による連鎖構造を形成することが知られているdA(2'-deoxyadenosine)のCSI-MSスペクトルを測定したところ,Naイオンが1つ付加した39量体までのイオンを観測した.同様に結晶中で水素結合による連鎖構造を形成することが確認されているcortisoneでも多重クラスターイオンが観測された.一方,結晶中で分子間に水素結合が存在しないprogesteroneではこのようなクラスターは観測されなかった.このことから,本手法により観測されるクラスターイオンは,結晶構造をある程度反映した「溶液連鎖構造」であると結論される.さらに,疎水性相互作用により形成する2分子膜やミセル構造,および逆送ミセル構造に於ても検討を行ない,phosphatidylcolineではNaイオンが付加した41量体のイオンが観測された. このように,本手法は溶液中で非共有結合性相互作用によって形成した生体分子クラスターの構造解析法として有効であることがわかった.
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