本研究の目的は、研究代表者が新たに開発した遺伝子導入ショウジョウバエを利用したスクリーニング系を用いて、自然免疫に作用する化合物を検索し、新たな免疫賦活剤や免疫抑制剤を開発することにある。まず、このスクリーニング系の有効性を、ヒトの抗炎症薬を用いて示し、哺乳動物と昆虫において、アラキドン酸などの脂肪酸を介した共通な経路が存在することを示した。次いで、千を越す化合物・微生物抽出物についてスクリーニングし、シクロペンタン誘導体を同定した。この化合物は、ショウジョウバエ自然免疫の抗菌ペプチド産生におけるimd経路に作用して免疫抑制効果を示す。この化合物の作用点を同定したところ、膜上の受容体から転写因子Relishが核に移行するまでの、細胞内シグナル経路に作用していることが明らかとなった。ショウジョウバエのimd経路は、哺乳動物自然免疫系のTNF-α経路に共通性を示すことから、この化合物が、哺乳動物のTNF-α経路に抑制的に働くことが予想された。実際、本化合物は、TNF-αによるケモカイン産生に抑制的に働くことが示された。本研究は、自然免疫系が進化的に保存されており、昆虫とヒトで共通性を示すことに着目し、遺伝子導入ショウジョウバエを利用して自然免疫に作用する化合物を検索することにより、新たな免疫賦活剤や免疫抑制剤の開発を目指すという極めて独創的な研究であったが、新たな作用点を有する医薬品の開発にとって、予想以上に有効な戦略であることが示された。
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