体細胞の分化機能を正常に維持したまま、分裂可能回数を延長あるいは無限分裂寿命化(不死化)させることができれば、自己分化細胞の事実上の増殖幹細胞化と言うことができ、幅広い応用が期待される。モデル細胞として、ヒト血管内皮細胞、ヒトアストロサイト、ヒト肝実質細胞を用いた。ヒト臍帯静脈血管内皮細胞は培養下で60回くらい分裂でき、テロメア短縮によって増殖停止する。テロメラーゼ遺伝子(hTERT)の導入によって容易に不死化した。不死化細胞は、マーカー遺伝子やタンパク質の発現、コラーゲンゲル上での脈管形成能などからみてほぼ正常の性質を示していた。しかし、染色体解析によって異数性、転座、逆位などの異常が半数程度の細胞に見られ、正常細胞として利用できないことが分かった。意外なことにhTERT導入前の正常細胞も同様の染色体異常が見られ、hTERT導入によって異常が誘発されたわけではなかった。ヒト胎児由来の繊維芽細胞では、hTERT導入前も後も正常染色体像であった。成人由来の血管内皮細胞は培養下で10から20回しか分裂できず、臍帯由来の内皮細胞と異なるが、hTERT導入を試みる。ヒトアストロサイトは、培養下で10から20回しか分裂できないが、hTERT導入によって著しく分裂可能回数が増加し、現在もまだ増殖中であるが、増殖が遅いため不死化を結論するにはもう少し時間が必要である。細胞生物学的解析および遺伝子発現パターンやタンパク質二次元電気泳動等に関して、正常性の維持が確認された。ヒト肝実質細胞については、培養下では数回の分裂しかできないが、hTERT導入によって著しく分裂可能回数が増加し、現在もまだ増殖中である。ただ、増殖が著しく遅いため不死化を結論するにはさらに時間が必要である。肝細胞マーカーは発現している。次年度はこれらの研究を継続して、正常機能を維持したヒト体細胞の樹立を目指したい。
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