ヒト骨髄中には種々の体細胞に分化できる幹細胞の存在が報告され、再生医療展開への可能性から注目を集めている。ただ、十分な量の幹細胞が用意できるか、どのような細胞に分化可能かなど、一部の細胞種をのぞけば実用化までには未だ遠い。他方、正常な体細胞の正常機能を維持したまま増殖させ、あるいは分化過程を若千さかのぼらせて、幹細胞化する事ができれば、これも再生医療に応用することが可能である。本研究課題の中で、ヒトテロメラーゼ遺伝子(hTERT)の導入によって、現在までに不死化あるいは延命が可能であったヒト体細胞は、繊維芽細胞、臍帯静脈血管内皮細胞の他、アストロサイト、肝実質細胞がある。骨芽細胞は種々工夫を重ねたが、hTERTの導入だけでは延命も不死化もできなかった。アストロサイトは調べた限りでは正常細胞の機能を維持していたが、神経細胞のマーカー発現は確認できなかった。肝実質細胞は調べた限りでは正常性を維持していたが、実質細胞のマーカーに加えて、胆管上皮細胞のマーカーも発現していることが分かった。hTERT導入による不死化は、増殖の幹細胞としての性質を付与すると考えることができるが、機能的にも、二種類の細胞に分化できる幹細胞としての機能を発揮させた可能性、つまり、体細胞の幹細胞化の可能性として興味深い。
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