遺伝子発現に関わる因子には、低分子化合物により活性化されてはじめて特異的応答遺伝子の発現を制御する核内受容体群が存在し、リガンド依存的に多くの重要な生理作用を厳密に制御している。本研究では細胞分化・増殖の特異的調節因子として知られるレチノイドの受容体RARおよびRXRにそれぞれ特異的親和性をもつ分子の創製を行った。筆者らが報告したRARレチノイドAm80をリード化合物としてその疎水性領域にホウ素クラスター(カルボラン)を導入した化合物を合成したところ、高いRAR親和性を有する化合物を得た。カルボランは高いホウ素含有率をもつことから、RARを標的とした癌の中性子療法への応用も期待できる。一方、RXRについても本研究者が報告したRXRアゴニストであるジフェニルアミン誘導体の構造展開を行った結果、ピリミジンカルボン酸誘導体PA024に強いアゴニスト活性を見出した。PA024はそれ自身ではレチノイド作用を持たないが、共存するレチノイドの作用を強力に増強するシナジスト活性を有していた。また、RXRアゴニスト創製過程において、レチノイドによるヒト白血病細胞HL-60の分化誘導を濃度依存的に抑制するジアゼピン誘導体を見いだしたが、本化合物がRXRアンタゴニスト活性を有することを示した。今までに知られているRXRアンタゴニストはRXRホモダイマー選択的アンタゴニストであるので、RXR-RARヘテロダイマーを抑制する初めてのRXRアンタゴニストである。RXRは様々な核内受容体とヘテロダイマーを形成することから、RXRアンタゴニストの各種ヘテロダイマーに対する活性を検討したところ、PPAR-RXRヘテロダイマーのアンタゴニストとしても機能し、肥満モデルマウスに対して、抗糖尿病、抗肥満効果を示すことがわかった。
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