核内受容体はリガンド依存的に多くの重要な生理作用を厳密に制御している。本研究では細胞分化・増殖の特異的調節因子として知られるレチノイドの受容体RARおよびRXRにそれぞれ特異的親和性をもつ分子の創製を行った。 レチノイド(RARアゴニスト)については、芳香族アミド誘導体Am80がRARを介して転写因子KLF-5の機能を制御することを見いだした。KLF5は胎生期の大動脈において高く発現し、、発生に伴って発現が減少する転写因子であり、血管障害によって新生内膜を形成する平滑筋細胞に強く発現することから、血管リモデリングに重要な働きをしていると考えられる。この転写因子機能を制御するAm80は、かふ障害後の大腿動脈において、肉芽形成と新生内膜の形成を抑制し、動脈硬化、心肥大などの心血管系疾患にレチノイドが有効であることを示唆した。 一方、既に申請者が開発したRXRリガンド(レチノイドシナジスト)の詳細な機能を解明すべく、DNAチップを用いた遺伝子発現プロファイルを検討した。ヒト白血病細胞HL-60に、RARアゴニスト単独、RXRアゴニスト単独及び両者の併用時における遺伝子発現をレチノイン酸と比較した結果、Am80との併用においてRXRアゴニストであるHX630とPA024が異なるプロファイルを示した。すなわち、Am80とHX630の併用ではall-trans-レチノイン酸(RARアゴニスト)と、またAm80とPA024の併用では9-cis-レチノイン酸(RAR & RXRアゴニスト)と一致した。また、この差はHL-60細胞のアポトーシスと関連することを明らかにした。RXRはレチノイド以外にも様々な核内受容体とヘテロダイマーを形成することを考慮すると、本成果は、同じ受容体に結合しても異なる生物活性を示す化合物の創製が可能であることを示している。
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