核内受容体はリガンド依存的に多くの重要な生理作用を厳密に制御している。本研究では細胞分化・増殖の特異的調節因子として知られるレチノイドの受容体RARおよびRXRにそれぞれ特異的親和性をもつ分子の創製を行った。 筆者らが見いだしたAm80をリード化合物とし、コンピュータ支援によるリガンド探索を行った結果、Am80の安息香酸をトロポロン、ベンゾフロキサンに代替した化合物にそれぞれレチノイドアゴニストおよびアンタゴニスト活性を見いだした。これらはカルボキシル基を持たないレチノイドであり、体内動態や臓器分布に特異性を発揮すると考えられる。また、Am80の疎水性領域にホウ素クラスター(カルボラン)を導入した化合物を合成したところ、高いRAR親和性を有する化合物を得た。カルボランは高いホウ素含有率をもつことから、RARを標的とした癌の中性子療法への応用も期待できる。 一方、RXRについては、本研究者が報告したRXRアゴニストであるジフェニルアミン誘導体の構造展開を行った結果、ピリミジンカルボン酸誘導体PA024に強いアゴニスト活性(レチノイドシナジスト活性)を見出した。また、RXRアンタゴニスト活性を有するジアゼピン誘導体HX531を見いだした。今までに知られているRXRアンタゴニストはRXRホモダイマー選択的アンタゴニストであるので、RXR-RARヘテロダイマーを抑制する初めてのRXRアンタゴニストである。更に、より受容体選択性の高いRXRアンタゴニストPA452へと展開した。PA452はレチノイドの作用には影響を与えず、レチノイドとRXRアゴニストの併用によるレチノイドシナジスト活性を選択的に抑制した。RXRは様々な核内受容体とヘテロダイマーを形成することから、RXRアンタゴニストの各種ヘテロダイマーに対する活性を検討したところ、HX531はPPAR-RXRヘテロダイマーのアンタゴニストとしても機能し、肥満モデルマウスに対して、抗糖尿病、抗肥満効果を示すことがわかった。
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