重要な機能をもつ特定遺伝子の転写の抑制や促進を誘発する人工タンパク質の創製は、遺伝子発現制御反応を担う分子として、新しいタイプのゲノム医薬・分子生物学的ツール等で期待される。本研究では近年注目を浴びているDNA湾曲を人為的にコントロールして遺伝子機能、中でも転写機能を制御することを目指すものであり、特により効果的なDNA湾曲化亜鉛フィンガーの設計・最適化を行って、得られた新規亜鉛フィンガータンパク質の細胞遺伝子機能への応用を計り、アンチセンス法とは異なった特定遺伝子の生物機能の制御方法を確立しようとするものである。先ず、新規マルチ亜鉛フィンガー型アーキテクチャーが引き起こすDNAの局所構造変化の中で湾曲化に焦点を当て、(1)DNAの湾曲の位置と程度を特定するため、ゲルシフト法によりDNA-タンパク質複合体の移動度の違いを解析した。(2)マルチ亜鉛フィンガータンパク質のどの部分がDNAの湾曲を誘発するのかを明らかにするため、リンカーの長さを改変してゲルシフト法、フットプリント法、メチル化干渉法などを駆使して、改変前後の変化について検討した。次に、これらの基礎的知見をもとに、DNA湾曲化と新規マルチ亜鉛フィンガータンパク質による転写活性との関連性を転写因子Sp1の変異体を用いたCATアッセイ・ルシフェラーゼアッセイにより追究し、DNA湾曲を基礎にした転写反応の人為的コントロールの可能性を示した。さらに、より効果的なDNA湾曲化能をもつ新しい亜鉛フィンガータンパク質の設計・創製あるいは転写活性化ドメインに連結した新しいベクターの開発などについても検討を行い、DNA湾曲による転写制御という新しいコンセプトの可能性を示した。
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