研究概要 |
白血球が血管から炎症部位へ浸潤する過程にはサイトカインや細胞接着分子が関与している。白血球浸潤の初期段階に見られるローリングには糖結合性の接着分子であるセレクチンと細胞表面の糖鎖との相互作用が重要である。この相互作用を抗体や糖鎖またはその誘導体で阻害することによって白血球の組織浸潤を抑制し,炎症反応をコントロールする試みがなされている。活性化血管内皮細胞と血小板に発現するP-セレクチンは,白血球表面の糖タンパク質に存在するシアル酸を含む糖鎖構造とチロシン残基に付加する硫酸基を認識し結合すると考えられている。本研究では,組換え型の可溶性P-セレクチンおよび化学合成された硫酸化シアル酸誘導体(NMSO3)の接着阻害作用および接着により誘導される白血球活性化の抑制作用を中心に検討した。結果を以下に示す。 (1)活性化血小板と好中球との混合培養系に可溶性のP-セレクチンを加え,活性化血小板依存的な活性酸素産生に対する効果を調べたところ,濃度依存的な阻害作用が認められた。 (2)DNAトランスフェクションにより,P-セレクチンを強制発現させたCHO細胞(P-セレクチン-CHO)あるいはヒト血小板から精製し固相化したP-セレクチンに対する白血病細胞株HL-60の接着反応に対するNMSO3の影響について検討した。その結果,NMSO3は,P-セレクチン-CHOあるいは固相化P-セレクチンとHL-60細胞の接着を濃度依存的に阻害した。阻害に要する濃度は,ヘパリンなどの酸性多糖よりも低濃度であった。 (3)固相化した精製P-セレクチン上でヒト末梢血単球を4時間培養後,その上清に放出されるTNF-α活性を測定したところ,単球からのTNF-α産生および放出がNMSO3により阻害された。
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