研究概要 |
アストログリア由来神経栄養因子産生に対する新規脳機能改善薬の作用:脳傷害後の神経系の再生は、アストログリアが産生する種々の神経栄養因子により促進される。新規脳機能改善薬であるFK960のアストログリアにおける神経栄養因子産生作用を検討し、これが、glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF)の発現を促進させることをmRNAおよびタンパクレベルでの観察で明らかにした。FK960の作用点は、これまで報告のあるソマトスタチン遊離やニコチン様アセチルコリン受容体を介さない新規のものであることが示唆された。アストロサイトのMAP kinaseファミリーに対し、FK960はERKを活性化させたが、p38およびJNKの活性化は惹起しなかった。FK960によるGDNF産生は、MEK阻害薬PD98059およびpratein kinase A阻害薬H89で抑制され、GDNF産生にこれらのシグナル系が関与することが示唆された。 海馬組織培養系におけるグリア-神経相互作用: in vitroにおける薬物評価系として培養ラット海馬切片を用いた実験系を確立した。本組織培養系に対し、脳虚血様の処置(外液グルコース除去およびアジ化ナトリウム添加)を負荷すると海馬CA1およびCA3領域の神経細胞層にアポトーシスによる細胞死が生じた。この虚血様処置による細胞死は、グルタミン酸受容体拮抗薬(MK801,CNQX)で減弱した。アストログリア型の高親和性グルタミン酸輸送体の阻害薬であるジヒドロカイニン酸は、この虚血様処置による神経細胞死を抑制した。以上の結果は、培養海馬切片においてin vivoでの虚血性神経傷害が再現されること、そしてその発生にアストログリアからのグルタミン酸放出が関与する可能性を示す。
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