抗体は多岐にわたる標的抗原に対して高い特異性と親和力を示すため、臨床化学分析における機能性器材として利用価値が高い。しかし、天然の抗体には分子量が大きいこと(約15万)に起因する種々の制約がある。そこで、抗体工学の技術により天然型抗体の構造と機能を改変して、超高感度・高選択的な臨床化学分析システムの確立に有用な低分子量の抗体フラグメント(ミニ抗体)の創製を企てた。まず、臨床診断上重要なステロイド[11-デオキシコルチゾール(11-DC)コルチゾール、ジゴキシン、デオキシコール酸(DCA)、リトコール酸サルフェート(LCA-S)、ウルソデオキシコール酸3-サルフェート]及び光学活性薬物である(1R)-ブフラロール(BUF)に対するマウスモノクローナル抗体の可変部遺伝子(V_H、V_L)をクローニングし、塩基配列を解析した。ついで両遺伝子をリンカー配列を介して連結したscFv遺伝子(5'-V_H-linker-V_L-3')を構築し、大腸菌に発現させて可溶型scFvを調製した。これらのうち、11-DC、DCA、LCA-S、BUFに対するscFvは、由来する天然型抗体に遜色のない親和力と特異性を保有することが判明した。ScFvは単一の遺伝子にコードされているため酵素や蛍光タンパク質などとの融合タンパク質として調製することも可能で、各種臨床分析化学システムの構築に有用と期待される。
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