重畳型仮想システムとは、仮想情報を現実世界に重ね合わせてモバイルユーザ(例えば携帯電話を所持したユーザ)に提示する情報システムである。すなわち現実と仮想の融合を目指すもので、拡張現実感(Augmented Reality)や複合現実感(Mixed Reality)の一分野である。ここで敢えて「重畳」という言葉を使っているのは、単に重ねているだけという簡単なモデルを強調するためである。すなわち、現実世界の位置情報(緯度、経度)のみを基準にして仮想情報を重ね合わせるもので、他の研究例のように仮想情報の位置合わせに特殊なデバイスを使用しないことが特徴である。これにより位置の精度は落ちるが、GPSのみ使用できれば良いので、アウトドアでも現地を一切加工することなく利用でき、安価であり、利用できる端末の範囲が拡大し、普及も見込めるという特徴がある。 研究代表者は、これまでSpaceTagシステムという名称でこの重畳型仮想システムの試作をいくつか行って来たが、今回の基盤研究の目的は、システム開発よりもむしろ評価にある。重畳型仮想システムは現状ではGPSしか位置センサーとして利用できず、そのため位置精度が落ちる。よって他で研究されている拡張現実感システムとはおのずと利用分野が異なるはずである。例えば観光案内等の応用を考えているが実際にそれが「使い物になる」ことが普及の最低条件であると言える。今回の基盤研究では被験者を使った実験を行い、SpaceTagの実用性を評価した。 結論として、他の携帯電話向け情報サービスとの棲み分けをうまく行えば、新しい情報サービス市場の開拓が可能なメディアに成り得る、ということを今回の基盤研究で確信した。さらに、三次元情報の配信という新しい試みも行っているが、これについても好評価が得られており、今後の実用化展開は大いに期待できると言って良い。
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