リン核は、生体内にATPなどの形で多く存在し、NMR(核磁気共鳴)の感度が比較的高い核であるが横緩和時間が非常に短く、縦緩和時間が長い為、生体内のリン核を測定し有用なデータを得るのは困難である。したがって、現在得られるリンNMR測定の感度では、単一細胞を試料とする実験が出来ず、研究を進める上で大きな障害となってきた。しかしながら、近年、NMR測定に用いる磁場強度が上がり、また検出器(プローブ)の技術も改良され、従って信号検出感度も向上してきたため、NMRを用いて生きたままの細胞を測定・解析できる可能性も高まってきた。本研究ではこのリン核に焦点を当て、生理的環境を灌流によって作り出した上で直接モニターできるプローブ装置およびセルの開発を行った。このプローブは、特に、短い横緩和時間に対応できる様に、測定用パルス、レシーバーのゲーティング・ダイナミックレンジを重点的に向上できるものとなっている。これにより、細胞や組織を生きた状態で長時間保持しながら、^<31>P-NMRスペクトルを測定することを可能とした。 また、本プローブでの検出対象となる、生体物質の混合物である牛乳についても解析を行った。1次元^<31>P NMR測定に加え、2次元^1H-^<31>P NMR測定法を適用することで、前処理を行うことなく、牛乳中に含まれるリン酸化合物成分について同定することに成功した。
|