研究概要 |
これまでに,我々が開発したR2TR法を用いることで分子の3次元構造が決定できることを示した.これは1回の実験で一つの二面角を決める方法であり,かなり大きな構造を決定するには多数回の実験を行わなければならないという欠点がある.本研究の目的は,多重ラベルしたペプチド試料で多数の二面角を一度に決定する手法を開発し,生体分子の構造解析が可能な固体NMR法を確立することである.本年度は手法の開発と装置の改良およびテスト試料の合成を並行して行った. (1)^1H-^<13>C dipolar-assisted rotational resonance法の開発 多スピン系の試料を用いて、多数のおおまかな距離情報を一度に決定するという,これまでに希求されてきたが実現されていなかった固体NMR法を検討・開発し,Chem. Phys. Lett.,344,631-637(2001)に報告した.この手法では,観測核スピンへのラジオ波照射を必要としないために,距離測定時間の制限が一般的に長い縦緩和時間になる.つまり,長距離の測定が行えるという大きな利点がある.また,観測は高分解能の条件で行うことが可能であり,他にも多スピン系への応用に適した特性を持っていることを示すことが出来た. (2)低温測定システムの設置 分子の構造を正確に決定するためには,試料の温度を下げることで局所的な分子運動の影響を出来るだけ除く必要がある.そのためには,低温で試料回転しながら長時間のNMR測定をする必要があり,これまでは,液体窒素をガス化して試料の回転および冷却に用いてきた.しかし,この方法では,液体窒素デュワーの容量の制限のために長時間の測定が出来なかった.また,大量の窒素ガスが発生することにより非常に危険であった.さらに,超伝導磁場冷却のための液体窒素の蒸発による磁場の変動も長時間測定を困難にする.そこで,最近開発された低温NMR測定システムと窒素再凝縮装置を購入して,現有のNMR装置に組み込み,安全で長時間の低温測定を可能にする改良を行った.
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