研究概要 |
本研究の目的は,多重ラベルしたペプチド試料で多数の二面角を一度に決定する手法を開発し,生体分子の構造解析が可能な固体NMR法を確立することである.これまでに,我々が開発したR2TR法を用いることで分子の3次元構造が決定できることを示した.これは1回の実験で一つの二面角を決める方法であり,かなり大きな構造を決定するには多数回の実験を行わなければならないという欠点がある.本研究の目的は,多重ラベルしたペプチド試料で多数の二面角を一度に決定する手法を開発し,生体分子の構造解析が可能な固体NMR法を確立することである.本年度は手法の開発と装置の改良およびテスト試料の合成を並行して行った. 本年度は前年に開発した1H-13CDipolar-Assistcd Rotational Resonance法(DARR法)の有用性を示すために,神経伝達物質の一種であるエレドイシンの構造研究を行った.具体的には,エレドイシンが属しているタチキニンの共通部位であるC端側の6残基(K-F-I-G-L-M)の炭素と窒素を全て炭素13と窒素15で同位体置換した試料を固相法より合成して,構造決定を以下のように行った.DARR法を用いた炭素13間の距離相関2次元測定を行い,多数の炭素間距離を得た.得られた距離を用いて分子の立体構造を決定するためのプログラムとしてX-PlorというYale大学で開発されたプログラムを導入し,得られた81ペアの炭素間距離を距離制限とした構造計算を行い,立体構造を得ることが出来た.さらにペプチド主鎖の2面角(φ)の測定を行い,得られた4つのφ角を角度制限として構造計算に用いることで、より精度の高い立体構造が得られることを示した.このように,本手法では数回の固体2次元NMR測定で,1種類の多重ラベルしたペプチド粉末試料を用いて,簡便にある程度の精度で3次元構造を得ることが出来る固体NMR法を確立することができた.
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