研究概要 |
本研究の目的のひとつであるアミロイド形成蛋白質の加圧による構造変化と高圧下での会合体の解離に関して以下の知見を得た。 1.リゾチームの4本のSS結合をすべて欠く変異体は単量体では3次構造を欠き2次構造も少ないが、高濃度では沈降定数17Sの水溶性会合体を形成し、ベータシート構造が誘起される。そして常温で週から月の時間オーダーで、アミロイドフィブリルに特徴的なチオフラビンT蛍光と、電子顕微鏡下での繊維形態を示す。^<15>N標識体の高圧NMR実験によれば、この前駆体は数百から千バールの圧力下で解離し、会合には疎水残基が優先的に関与している。 2.アルファドメインの2本のSS結合を保持し、ベータドメインの2本のSS結合を欠損するリゾチーム変異体では、アルファドメインの立体構造は完全に保存されているが、ベータドメインのループ部分と、3番目のベータ鎖は構造が壊れていた。この部分構造の存在がアミロイド繊維形成に与える影響を今後調べたい。 3.高分解能高圧NMR設備を用い,^<15>N標識βラクトグロブリン及びカリフォルニア大で調製された^<15>N標識プリオンについて測定を行い,βラクトグロブリンではフォールディング中間体に相当する構造が生理的条件で励起構造としてわずかに存在することが分かった。一方プリオン蛋白では現在まで立体構造が部分的に破壊された構造を観測することは出来なかったが,今回の測定により世界で初めて残基レベルで励起構造を観測することが出来た。その励起構造ではヘリックスBとCが選択的に変性しており,ヘリックスAは天然構造のまま残っていた。この励起構造が病原性のスクレイピー構造に到る中間体であると考えられる。 4.理化学研究所播磨構造生物学研究棟の800 MHz NMR装置を高圧NMR測定用に改良した。この最新鋭機種を用いて,アミロイド形成蛋白質やスクレイピー型プリオン蛋白質の構造について調べる予定である。
|