研究概要 |
1.リゾチームの4本のSS結合をすべて欠く変異体は、外来の変性因子なしで3次構造ならびに殆どの2次構造のない変性状態を"intrinsic"にとる。ベータ構造形成を伴うそのアミロイドフィブリル前駆体への会合には疎水性残基が優先的に関与する。それらの残基の分布はSchwalbe, Dobsonらによって報告されている分子内で相互作用する6箇所の疎水性クラスター群にほぼ一致する。これは、intrinsicな変性状態において分子内の疎水性相互作用部位が同種の他の分子のそれと交換することにより、会合体が規則的に形成される機構を示唆する。 2.この変異体のフィブリル形成のタイムコースをGPCによって調べ、フィブリル形成における大きな蛋白濃度依存性を定量的に把握した。3mg/ml以上の濃度では1日で分子量50万-700万の会合体ができるが、それ以下では会合の進行は極端におそい。この依存性よりフィブリル形成の会合核のサイズを推測した。 3.プリオンについて、高圧NMRによって調べた残基レベルでの熱力学的安定性と,CPMG分散法によって調べた常圧下でのミリ秒領域の遅い揺らぎとを比較した。両者はよく一致し、両実験から求められた化学シフトの偏移は,圧力シフトの線形依存部分において高い相関を示した。これは,高圧NMRで観測されるプリオンの活性中間体PrP*は,生理学的条件で自然に起きる遅い揺らぎによってプリオンが到達できる構造であことを示す。また,遅い揺らぎの特に大きい残基によって取り囲まれる部分にはキャビティーが存在し,ここに結合する薬物を探索することにより,治療薬を開発できる可能性が強く示唆された。即ち,高圧下における構造安定性や常圧における遅い揺らぎを調べることにより,アミロイド関連疾患の治療薬開発に必要な情報が得られる可能性が極めて高いことが分かった。
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