研究概要 |
本研究に用いる単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクターの特徴は神経親和性と弱毒性にあり、皮下接種で脊髄後根感覚神経節へ、筋肉内接種により脊髄前角運動神経細胞に、外来遺伝子導入でき、炎症や組織破壊を起こすことなく、長期にわたり(少なくとも6ヶ月)安定して外来遺伝子を発現できることである。レトロやアデノウイルスなど他の遺伝子発現ベクターでは、免疫の存在下では遺伝子発現に顕著な問題を生ずる。そこで、あらかじめ免疫を有する動物に対しての遺伝子導入について検討した。 免疫を有するラットの右腓腹筋に接種すると両側脊髄前角細胞に、他のウイルスベクターと異なり、遺伝子導入が可能で炎症や組織は改造を示すことなく、免疫を有する動物に対しても免疫を持たない動物と同様に、やや効率は落ちるが、遺伝子導入が可能であることを示した。これは、transneural spreadという広がり方をするため、免疫を回避できると考えられた(Gene therapy, 8, 1180-7, 2001)。 つぎに、ベクターによる遺伝子導入の範囲と生理学的機能に関する検討を行った。このベクターをCaudate Putamenに接種して、その遺伝子発現の範囲を接種日から抗ウイルス剤ガンシクロビル投与開始日による期間により制御した。そして、これらの過程における生理学的な機能Acoustic Startling Response(ASR)とPrepulse Inhibition(PPI)への影響について検討した。その結果、遺伝子発現の範囲は、caudate putamenからamygdalaなどを含むtemporal lobeなどへ進展した。その進展により発現領域はウイルスベクター接種とガンシクロビル投与開始日による期間により制御できた。さらに、この外来遺伝子の発現期間は、ガンシクロビル投与終了後も持続した。このように、HSVベクターを用いた遺伝子発現領域の制御を行う過程で、ASRとPPIに有意な変化を認めず神経機能に対する弱毒性が確認できた。
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