アンチセンスRNAを発現させることにより、センスRNAと結合させ、その翻訳を抑制し、遺伝子機能を阻害できることが知られている。しかし、線虫やショウジョウバエの実験から、2本鎖RNAを発現させたほうが、遺伝子機能の阻害効果が強いことが示され、この現象をRNA interference(RNAi)とよぶようになっている。マウス肝炎ウイルスMHV)は、遺伝子改変マウスのやり取りが活発化している現在、実験用マウスの管理上最も厄介で汚染確率の高いウイルスである。これを防止するため、RNAi法の利用を考えた。これまで我々が開発してきた遺伝子トラップ法を行うと同時に、MHV耐性を付与するため、トラップ後に2本鎖RNAを発現させ、MHV抵抗性マウスを作製することを目的とした。この方法が有効かどうかを検定するために、ES細胞で発現している6種類の糖鎖関連遺伝子の2本鎖RNAを合成し、それをES細胞に導入し、発現が抑制されるかどうかを検討したところ、最も効果的なものでも20%の抑制であることが分かった。このことは、2本鎖RNAを直接導入しても、その効果は低いことを示唆している。 我々の用いているトラップベクターは、レポーター遺伝子にbeta-geoを用い、その前後に変異lox配列を配置している。これにより、トラップクローン樹立後にbeta-geoを任意の遺伝子に置換することが出来る。まず、ES細胞内で発現させたヘアピン状の2本鎖RNAが機能するかどうか調べるため、既に樹立されてトラップされた遺伝子とトラップベクターの挿入位置が明らかになっているクローンを用い、beta-geoをトラップされた遺伝子のアンチセンス配列に置換してその効果を検討した。しかしながら、野生型アレル由来のmRNAは問題なく転写されていることがわかった。従って、少なくともこの系では、ヘアピン状2本鎖RNAは顕著なRNAi効果を示さなかった。今後は、ベクターの工夫により、有効に働くRNAiトラップベクターの構築をめざしたい。
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