我々は、日本産野生マウス由来の近交系マウス(KOR)の作出中に、自然発症高脂血症(spontaneously hyperlipidemic mouse ; SHL)マウスを発見し、その原因がアポリポタンパクE(アポE)遺伝子の変異によるアポE欠損であることを明らかにした。アポEを欠損するSHLマウスの主要な表現型(症状)は、血清総コレステロール(TC)の高値、大動脈起始部に限局した粥状動脈硬化症および重症の皮膚黄色腫であり、極めて短命(1年未満)であった。興味深いことに、このSHLマウスをアポEノックアウト(C57BL/6-Apoe^<-/->)マウスと比較すると、症状に著明な差異が認められた。この差異の主因としてC57BL/6-Apoe^<-/->マウスがヨーロッパ産野生マウス由来のラボラトリーマウスであるC57BL/6の遺伝的背景を持つのに対し、SHLマウスのそれは日本産野生マウス由来であることが考えられた。両者は約100万年前に分岐し、その遺伝的背景は極めて異なるからである。そこで、遺伝的背景が種々の表現型に及ぼす影響を明らかにするためSHLマウスのアポE変異遺伝子を、動脈硬化に対する感受性が異なる3系統の近交系マウスに導入したコンジェニックマウスを完成した。今年度はSHLマウスと3系統アポE欠損コンジェニックSHLマウスを用いて動脈硬化予防機能性食品成分のうちカテキン、タウリンおよびカルタミンについてその改善効果を判定した。その結果、効果判定の指標として用いた血清脂質、動脈硬化および皮膚黄色腫の進展度等の表現型に系統差が認められ動脈硬化成立に関与するアポE欠損以外の複数の遺伝子の関与が推定された。なお、SHLマウスの疾患モデルとしての実用化に向けて、特許の取得、理化学研究所つくばリソースセンターへのマウス寄託を行った。またコンジェニックSHLマウスの市販化を推進中である。
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