研究概要 |
松島は1996年、日本産野生マウス由来の近交系マウス(Koriyama ; KOR)を作出中に、自然発症高脂血症(spontaneously hyperlipidemic mouse ; SHL)マウスを発見し、その原因がアポリポタンパクE(アポE)遺伝子の変異によるアポE欠損であることを明らかにした。SHLマウス(KOR-Apoe^<shl>)の主要な表現型は、血清総コレステロール(TC)の高値、粥状動脈硬化症および重症の皮膚黄色腫であり、極めて短命(1年未満)であった。このSHLマウスをアポEノックアウト(C57BL/6-Apoe^<-/->)マウスと比較すると、症状に著明な差異が認められた。この差異の主因としてC57BL/6マウスがヨーロッパ産野生マウス由来のラボラトリーマウスであるのに対し、SHLマウスのそれは日本産野生マウス由来であることが考えられた。そこで、遺伝的背景が種々の表現型に及ぼす影響を明らかにするためSHLマウスのアポE変異遺伝子を、動脈硬化に対する感受性が異なる3系統の近交系マウスに導入した3系統のコンジェニックマウスC57BL/6.KOR-Apoe^<shl>、BALB/c.KOR-Apoe^<shl>、およびC3H.KOR-Apoe^<shl>を完成した。3系統間のTC値はB6.KOR-Apoe^<shl>が最も低い値を示し、6週齢時でのTC平均値はKOR-Apoe^<shl>は1,300mg/dl、C3.KOR-Apoe^<shl>は1,100mg/dl、C.KOR-Apoe^<shl>は900mg/dl、B6.KOR-Apoe^<shl>は700mg/dlであった。硬化巣は、最もTC値の高いKOR-Apoe^<shl>の動脈硬化巣が最も軽度であり、逆に最もTC値の低いB6.KOR-Apoe^<shl>の動脈硬化巣が最も重度であり、TC値と動脈硬化の重症度は相関していなかった。皮膚黄色腫の進展度はKOR-Apoe^<shl>の黄色腫が最も重症で、ついでB6.KOR-Apoe^<shl>であり、C.KOR-Apoe^<shl>とC3.KOR-Apoe^<shl>は軽度であった。ヒトの高脂血症・動脈硬化症では環境要因である国と地域による差異、食生活の関与が明らかである一方、同様の食生活習慣を持つグループの中でも大きな個人差があることが知られている。今後の高脂血症・動脈硬化症の機序、予防および治療法など、個人の遺伝的背景を考慮した研究により、各個人にきめ細かい指導と治療が出来るようになることが望まれる。この意味でオリジナルSHLマウスとコンジェニックSHLマウスは、個人差、体質差、民族差等の遺伝的背景を考慮した高脂血症、動脈硬化症に対応するモデルセットとして有用性が期待される。
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