本研究では、高い細胞及び組織特異性を有し、極めて高い遺伝子導入効率を有するウイルス感染機構を応用し、かつ、ウイルスゲノムを完全に排除した副作用の危険性が低い遺伝子導入法を開発することを目的としている。平成13年度には、ヒト肝臓に極めて高い特異性及び感染性を有するB型肝炎ウイルス(HBV)の感染機構を担う外皮タンパク質を、組換え酵母で「中空ナノ粒子(HBV表面抗原(HBsAg)粒子)」として大量生産し、粒子内部に目的遺伝子発現ベクターを封入して、ヒト肝臓特異的で高効率な遺伝子導入用ベクターとすることに成功した。また、本粒子は培養細胞のみならず、ヒト肝臓癌を移植したヌードマウスにおいても、ヒト肝臓癌に対してHBV並の強い感染力と特異性を示した。さらに、既に同粒子はB型肝炎ワクチンとしてヒトに投与された実績を有しており安全性には問題がなく有望である。平成14年度には、遺伝子導入効率を一層高める改良を同粒子に施し、ヒト肝臓癌を移植したヌードマウスをアッセイ系で高効率の粒子作製に成功した。次に、HBsAg粒子表面のN末端部分に位置するpre-S領域のヒト肝臓特異的レセプターを他の生体認識分子(抗体、レセプター、リガンド等)と置換して、ヒト肝臓以外の細胞や組織に対してピンポイントの特異性を示すナノ粒子に改造した。また、ヒトで抗体認識されないHBV変異体が知られているので、その変異部位を本粒子に導入して長期投与が可能な「ステルス・ナノ粒子」の作製に成功した。
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