研究概要 |
まず今年度は,側鎖に反応性官能基を有するデプシペプチド-乳酸ランダム共重合体の組織工学材料としての基礎的評価として,共重合体フイルム上での細胞培養における共重合組成の影響,および細胞培養中のフイルムの分解挙動について検討した。既に報告した方法に従い、側鎖にカルボキシル基またはアミノ基を有するデプシペプチド-乳酸ランダム共重合体を合成した。反応時の環状デプシペプチドとラクチドとの仕込み比率を変化させて,共重合組成が異なる共重合体を合成した。得られた共重合体をクロロフホルム溶液からキャストすることにより成型し,表面に種々の量の負電荷または正電荷を有する生分解性フィルムを調製した。得られたフィルムの水に対する動的接触角を測定することにより,表面濡れ性(親水性)の度合いを評価した。さらに,滅菌した共重合体フイルム上で,L929マウス繊維芽細胞を培養し,細胞接着率・増殖速度に及ぼす表面荷電の種類(正電荷・負電荷)と量の影響について調べた。その結果,電荷をほとんど持たないポリ乳酸フィルムと比較して,正負どちらの電荷の場合であっても,少量の電荷を有する場合には,細胞の接着率が向上することがわかった。細胞の増殖速度に関しては,正負いずれの電荷であっても表面官能基が少量の場合には,ポリ乳酸フィルムと同等に良好であった。細胞培養に伴なうフイルムの分解性を検討したところ,デプシペプチド-乳酸ランダム共重合体はポリ乳酸と比較して高い分解性を示し,デプシペプチドユニットの導入率が高いものほどその影響は顕著であった。また,フイルムの分解が進行していても,細胞の増殖が大きく阻害されることは無かった。以上の結果から,デプシペプチド-乳酸ランダム共重合体は良好な細胞接着・増殖特性を示し,分解速度の制御や化学修飾が可能な組織再生用足場として有用であることが示された。
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