研究概要 |
内分泌撹乱化学物質は、内在性ホルモンの合成から受容体に至るステップのいずれかに影響を与え、本来行われるべきホルモン作用を撹乱するものと考えられる。前年度,甲状腺ホルモン輸送に関わる血漿タンパク質(トランスサイレチン,TTR)を標的として甲状腺ホルモン結合を競合阻害する化学物質を同定した。その幾つかはハロゲン化合物であった。これらの化学物質の活性と構造の相関をさらに明瞭にするために,PCB及びその水酸化体を用いてTTRに対する甲状腺ホルモン結合の阻害を検討した。その結果,ホルモン結合特異性がカエルTTRにおけるT3(活性型甲状腺ホルモン)型からほ乳類のT4(前駆体甲状腺ホルモン)型に変化することに対応して,化学物質を認識する特異性も変化することが明らかとなった。これは,化学物質に対する生物の感受性の違いを説明できる原因のひとつになり得るものと考えられる。また,本アッセイは環境水中の化学物質を検出する方法としても有効であることが,県内の環境水を用いて示された。特に,製紙工場排水に対して有効であり,濃縮や抽出等の操作が不要であり,一度に大量のサンプル数を処理することが可能である。また,同様の内分泌撹乱作用を有する化学物質が複数存在している場合,その影響の総和として検出することが可能である。内分泌撹乱作用を有する未知の化学物質の検出にも役立てることができる。本研究は,環境ホルモンのスクリーニング方法として,従来の精密ではあるが高価で煩雑な操作を必要とする化学物質の化学分析に代わって,安価で操作も簡便な新しいin vitroのアッセイ法を提案した。
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