研究概要 |
内分泌撹乱化学物質は、内在性ホルモンの合成から受容体に至るステップのいずれかに影響を与え、本来行われるべきホルモン作用を撹乱するものと考えられる。前年度,甲状腺ホルモン輸送に関わる血漿タンパク質(トランスサイレチン,TTR)および核内受容体を標的として甲状腺ホルモン結合を競合阻害する化学物質を同定した。しかし、これらの実験は精製蛋白質を用いておこなったため、実際の細胞でこれらの甲状腺系撹乱作用が再現できるかという疑問があった。そこで、今年度は、オタマジャクシの赤血球をモデル細胞に以下の研究を行った。(1)甲状腺ホルモンの細胞への取り込みステップを化学物質が阻害するかどうかを明らかにする目的で、ホルモン取り込み初期速度を種々の化学物質の存在下で調べた。その結果、幾つかの化学物質はホルモンの取り込みを有意に阻害した。(2)次にこれらの化学物質の存在下で、甲状腺ホルモンを培地に加え、赤血球の甲状腺ホルモンのシグナル応答をホルモン一次応答遺伝子の転写レベルで検討した。ホルモンの取り込みに影響を与えた化学物質の多くは、甲状腺ホルモンによるホルモン一次応答遺伝子の転写増加を阻害した。それらの化学物質の幾つかは、受容体を認識しないことからホルモン取り込み阻害が、甲状腺系撹乱作用の原因となっている可能性を示唆した。また、ホルモン取り込みステップより受容体を標的とする化学物質、受容体もホルモン取り込みステップも標的としない化学物質も確認することができた。以上の結果は、甲状腺系撹乱化学物質は受容体を標的にするものだけでなく、他の標的部位を認識する化学物質も含まれることが示唆している。
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