本研究は、網膜の時空間処理に関係する神経回路メカニズムについて、マルチ微小電極による電気生理実験と数理モデルを用いた計算機シミュレーションにより解明を目指したものである。 網膜の出力細胞である神経節細胞からの光応答微小電位を計測するため、適切な電気的特性や形状をもつ集積型極微小マルチ電極を設計・試作した。このマルチ電極は、si(111)集積回路上に導電性siプローブ電極を成長させる全く新しい発想のデバイス技術であるVLS結晶成長法を用いて開発された。試作した電極は、直径数ミクロンのsiプローブを数十ミクロン間隔で実装可能であり、それぞれの試作プローブが微小電位を計測するに十分な電気的特性を有することが示された。また、この試作電極を用いた網膜電気生理実験システムを従来のマルチ電極計測システムをベースに確立した。 数理モデルによるアプローチでは、マルチ電極を用いて計測された光応答を解析するため、神経節細胞とその入力細胞である双極細胞間のシナプス伝達機構について数理モデル化を行った。構築したモデルは、電位変化から伝達物質放出に至る細胞内情報伝達機構について生理学的知見を基に記述され、電流-電圧特性やパルス幅-膜容量特性など双極細胞の電気生理学的特性を十分に再現した。本モデルと既に提案されている各細胞モデルを統合することによって、視細胞-双極細胞-神経節細胞という網膜内の光情報の直接経路のネットワークモデルを構成することが可能になった。
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