本研究は、現地調査に基づいてインド各地のヴェーダ祭式伝承と文献伝承に関する情報と資料を収集し、現存ヴェーダ伝承の実態を総合的に研究することを目的としている。3年の研究期間に延べ8度の現地調査を行ない、主に南インドのケーララ州とタミルナードゥ州におけるヤジュルヴェーダ・ヴァードゥーラ派とサーマヴェーダ・ジャイミニーヤ派を集中的に調査し、両学派の伝承全体を掌握するとともに、それぞれの歴史的移動と地域的分布および近縁学派との関係などに関する情報を収集した。また今回の調査研究は、ヴェーダ諸学派が伝承している古写本の全体的な記録と撮影を目的の柱の1つとしており、その成果として未知の文献を含む大量の写本資料を入手することができ、今後、新たな研究へ発展させることが可能となった。 研究成果報告書として、以下のような、ヤジュルヴェーダ・ヴァードゥーラ派とサーマヴェーダ・ジャイミニーヤ派の伝承実態に関する詳細な調査書と、両学派が伝承する写本コレクションの記述的なカタログからなる冊子を作成した。 ・新写本によるヴァードゥーラ学派基本文献の概要 ・ヴァードゥーラ学派の蒐集諸写本一覧 ・Documenting the Present Jaiminiya Traditions ・A Catalogue of the Manuscripts of the Jaiminiya Samaveda traced and photographed in 2002-2004. ヴァードゥーラ派の文献はこの学派に属する2つの家系に集中して伝承されており、調査書では両家系に所蔵されている写本群の意義とその内容の大要について報告した。ジャイミニーヤ派サーマヴェーダは、歴史的にケーララ州とタミルナードゥ州に分かれて伝承され、しかも特にタミルナードゥ州では各地に分散して存続しているので、調査書では各地域の伝承実態を概観するとともに、地域間の関係と相違についても記録した。
|