中国雲南省では毎年度、大理盆地と昆明市で現地調査を実施し、ペー族のエスニシティに関わる文字資料と聞き取りによるデータを収集・整理し、分析をおこなった。主な成果は、1.明代の大理人において、文人としての中華思想とともに、地方人としての地域の文化伝統と住民に対する愛着と対(反)中央的感情が存在することを明らかにした。2.中華民国から新中国建国期において、従来、「民族」概念を知らなかった個人が「少数民族」の概念の出現によってその一集団として自らを位置づけていくプロセスを個人的体験のデータおよび同時期の民族をめぐる政治的社会的制度と思潮の変化に基づいて明らかにした(成果の一部は「中国において『民族』概念が創りだしたもの」という論文に反映)。3.ペー族の絞り藍染めの歴史を明らかにし、産業化にともなう民族表象としての発展と自文化に対する価値意識の変化を指摘した。 ミャンマーではマンダレー、ヤンゴン、ミッチーナー、ラシオ、タウンジー、バモーなど中国系住民が多く居住する主要都市で会館組織や住民への聞き取り調査を実施し、収集データの整理・分析を行なった。主な成果は、1.雲南系、広東系、福建系およびその他の出身地域ごとに、移住・定着と会館組織に関する歴史の基本的状況を明らかにした。2.異なる会館間の組織や歴史的経緯の違い、移民を受け入れたミャンマー社会の変動の歴史、さらにヤンゴン、マンダレーの二大都市と中国国境により近い都市という地理的な条件の違いなどを総合的に分析することにより、19世紀から今日までのミャンマー在住の中国系住民社会の展望を描いた。3.現在、雲南においてペー族とされる人々と同一の出自を持つ人々が、ミャンマーにおける中国系住民の全体状況の中で、ミャンマーではペー族というエスニシティをほとんど持つ機会なく雲南系住民の一部を構成してきた歴史が明らかになった。
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