研究概要 |
本研究の目的は、中米のグアテマラ共和国のアグアテカ遺跡の焼失建造物跡から出土した遺物の分析を通して、古典期マヤ人の日常生活の様子を研究することである。平面発掘した全部で8基の焼失建造物跡の全出土遺物を分析対象とした。特に青山担当の石器分析では、全石器(10,839点)の属性分析のデータを抽出した。マヤ考古学ではまだ広範には行われていない高倍率の金属顕微鏡を用いた石器の使用痕研究を実施し、約36%の打製石器を分析した。さらに建造物内や建造物間の石器の製作・流通・消費を研究するために、マヤ考古学初の試みとして、床面直上をはじめとする一次堆積石器の体系的な接合を行った。海外共同研究者の猪俣健らと協力して、土器、土偶、貝製品、骨製品その他の全ての遺物の分析、写真撮影および実測図の作成を完了した。こうした遺物の分析データをコンピュータに入力してデータベース化した。結論として、第一に、発掘された全ての支配層住居跡から、美術品および実用品の半専業生産の証拠が見つかり、古典期マヤ支配層の間で、手工業生産が広く行われていたことが明らかになった。第二に、都市機能という面から見るとアグアテカは、実用品と美術品からなる半専業の手工業製品の生産と消費の中心地であった。宮廷の宗教儀礼や政治活動だけではなく、経済活動もかなり集中していたのである。第三に、古典期のマヤ支配層を構成した書記兼工芸家は、複数の社会的役割を担っていた。同一人物が書記であると同時に、様々な手工業品を生産し、あるいは石碑の彫刻に従事し、戦争、天文観測、暦の計算、他の行政・宗教的な業務といった多種多様な活動に住居の内外で従事した。つまり、古典期マヤ社会では、他の多くの古代文明社会のように専業工人は存在せず、職業の専門化が比較的未発達な社会であったのである。
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