研究課題/領域番号 |
13571037
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
藤井 純夫 金沢大学, 文学部, 教授 (90238527)
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研究分担者 |
三宅 裕 東京家政学院大学, 人文学部, 助教授 (60261749)
山内 和也 東京文化財研究所, 国際文化財保存修復協力センター, 主任研究官 (70370997)
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キーワード | 西アジア / 遊牧民 / ヨルダン / 墓制 / 新石器時代 / 沙漠 / 凝集落仮説 |
研究概要 |
本代表者の提唱する「擬集落仮説(pseudo-settlement hypothesis)」の妥当性を検証するため、計画初年次・2年次に、ヨルダン南部ジャフル盆地のカア・アブ・トレイハ西遺跡を発掘調査した。計画最終年次に当たる本年度は、こうした成果を基に、より広汎なコンテキストの中での再検証を試みた。同盆地北西部における複数の遺跡発掘調査が、それである。 まず、テル・ブルマの周辺では2件のK-ライン遺跡を調査し、これが擬壁ケルン墓の直線的連結体であること、カア・アブ・トレイハ西遺跡の編年では3層直前の段階に位置づけられること、を明らかにした。また、ワディ・ブルマでは2件の環状シスト墓を調査し、この新たな墓制の影響下で上述のK-ライン墓が解体・環状化して、カア・アブ・トレイハ西遺跡第3層の環状擬壁ケンル墓の成立につながったことが判明した。このほか、ハラル・サーイーエのK-ライン墓も調査し、そこでの切り合い関係から、K-ラインがカア・アブ・トレイハ西遺跡第3層の環状擬壁ケンル墓に先行する墓制であることを実証した。 こうした調査の結果、ジャフル盆地における後期新石器時代から前期青銅器時代までの墓制編年を確立することができた。すなわち、1)ジャフル盆地初期遊牧民の墓制には、(定農定牧時代における壁際廃屋葬の遺制としての)「擬住居」「擬壁」が伴っており、2)それが一方では後期新石器時代の擬集落となって、3)他方では前期青銅器時代前半のK-ラインや、4)同後半の環状ケルン墓群となって、それぞれ表出していることが明らかになった。このことは、西アジアの初期遊牧文化が、周辺狩猟採集民による家畜導入によってではなく、むしろ定農定牧地帯からの派生によって成立したことを意味している。墓制の比較を通して、西アジア初期遊牧文化の起源問題に一定の解答を与えることができた。これが、本研究の最大の成果である。
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