研究概要 |
本年度は、昨年度に引き続き、アメリカ精神遅滞学会の知的障害定義の改正(2002 AAMR Mental Retardation ; Definition, Classification, and Systems of Supports)が障害者の共生社会の成立に及ぼす影響を日本の支援費制度との関係で明らかにすることを目的とした。アメリカ精神遅滞学会の定義は、知的障害を従来のように個人的な特性と見る見方から支援を中心に見る見方へと大きく転換している。アメリカへの調査は8月5日〜19日にワシントン州シアトル地区でシアトル市地域および人間サービス部発達障害局(Department of Community and Human Services, Developmental Disabilities Division)およびワシントン州キング郡知的障害者協会(The ARC of King County)への訪問調査によって行った。また、第10版の翻訳を行った。国内の支援費制度に関する資料は岡山県市町村支援費担当職員へのアンケート調査、ケアマネージメント研修で参与観察、支援費制度に関するシンポジウムの企画、運営、進行からの資料収集によって行った。それぞれの結果は以下の通りである。1.アメリカ合衆国での調査研究と翻訳の経過。第10版の実際の使用については、定義のサービス現場への影響は、まだゆるやかであり特に適応行動の基準についての新たな変更については現実にすぐに変わることが困難であり多様な尺度が用いられている。翻訳については東京大学教授栗田 弘氏と進めており現在訳語の統一などを図っている段階で今年度中に日本知的障害福祉連盟より出版される予定である。2.我が国の支援費制度は厚生労働省が基礎構造改革に伴い措置から契約、本人主体等の理念を述べたにもかかわらず支援費制度を直接担当する市町村職員のアンケート調査では、実際の現場では支援費の量や内容の評価に追われ、「支援」ということが従来の援助やサービスとどのように違うのかということへの配慮がない。また、支援費制度では経費の問題になるため、アメリカ精神遅滞学会が述べている家族、知人、近隣の人々による公的ではない支援の重要性がほとんど問われていない。支援費制度の導入には、ケアマネージメント事業を同時に開催しているが、本来知的障害者の権利保障の第一の役割を担うべきケアマネージメントやコーディネーターの数や専門性も乏しく、共生という理念に向けてスタートした支援費制度は今後の多くの点で改善あるいは研修等の問題が出てくると思われる。
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