「生命科学の事業化における技術移転及びベンチャー・キャピタルに関する調査研究」のプロジェクトでは、2001年度から2003年度までの3年間の海外学術調査の一環として、バイオベンチャーの創業に関わる技術移転、ベンチャー・キャピタルなどの活動を調査してきた。 調査した地域としては、国内の他に、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、スイス、スペイン、アイスランド、インドなどである。調査対象としては、バイオテクノロジーが他の主要技術に比較して、基礎研究への依存度が高く、しかも、開発期間を延長する傾向があるとの米国特許統計に基づき、基礎研究機関、TLO・TTO、バイオベンチャー、ベンチャー・キャピタル、インキュベーター、サイエンスパーク、バイオコンサルタント、製薬企業研究所などを実現可能な範囲内で選択・訪問した。バイオベンチャーが創業する際には、アイスランドのdeCode社のような国家的プロジェクトを背景とする場合を除き、通常、バイオクラスターに集積する傾向がみられる。その一因は、大学・製薬等大企業のM&Aからのスピンオフがバイオベンチャー創業の主要契機であることに由来する。バイオ医薬ベンチャーが長期間の赤字でも研究開発に専念できるメカニズムとしては、基盤技術を基礎に、バイオ特化型ベンチャー・キャピタルの支援、製薬大企業との研究開発提携、IPO、そして自社医薬開発のプロセスが先行企業によって開拓されているからである。但し、自社医薬開発に成功した場合でも、ブロックバスターを開発したAmgenやGenentechのような一部の突出企業も存在する一方で、成果が小さいと黒字転換が困難で、多くの企業は倒産したり、M&Aの対象になっている。 米国及び英国には、公開市場において、バイオツールよりもバイオ医薬系の高リスク高リターン型ビジネスモデル・ベンチャーの企業価値の安定性が、2000年前後のゲノムバブル期に観察できるが、さらに、公開前のプライベートイクィテイ段階でも10年以上の長期研究開発型ベンチャーを支援する忍耐強い資金が存在する。それを可能にするのは、専門的技術を理解するベンチャーキャピタリスト層、企業での取締役会・科学顧問会によるリスク低減のガバナンスの仕組みなどが日本の企業社会よりも洗練されているためと考えられる。加えて、一部の先行的企業の中には、リアルオプションを使用して、ライセンス・投資に伴う特許の経済的評価をしたり、研究開発プロセスにおける時間に関する情報非対称性に対処した最適意思決定を志向している事例がみられた。故に、今後の課題としては、リアルオプションを基礎にした最適意思決定の可能性を検討する必要があると思われる。
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