研究概要 |
本研究は,多国籍企業とりわけ多数の在外子会社を世界各地に展開する日系多国籍企業のマネジメント・コントロールにおいて,諸種の管理手法や管理システムが具体的にどのように活用されているかを,経営者や管理者等へのインタビューを中心としたフィールド・ワークおよび関連資料の分析を通じて明らかにすることを目的としている。かかる目的を遂行するために,共同研究者であるマドリッド・カルロス3世大学のPaolo Quattrone助教授を招へいし,同助教授とともに,オムロン株式会社,トヨタ自動車株式会社,松下電器産業株式会社,ブラザー工業株式会社においてヒアリングを実施するとともに,関連資料を収集しその分析を行った。その結果,以下のような知見が得られた。(1)企業活動のグローバル化と新しいコントロール手法の採用は,経営活動の地域分散を促す要因として作用している。(2)非財務情報システムが,企業のブランド力を強化するための手段として活用されている。(3)企業規模の拡大と生産子会社の海外展開が,コントロール・システムの変化を促す要因として作用している。総じて言えることは,日系多国籍企業は,近年とりわけ1990年代以降,市場指向的経営に徹することで分権的コントロール・システムを採用・整備してきたということである。その背後には,経済合理性とそれを基盤にした暗黙知の形成がある。それを欠く場合,システムの変化は,期待された成果を生み出さない。システムの変化の成否は,主としてこの点にかかっていると考えられる。
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