研究概要 |
中国大陸東部と日本列島を中心に,過去2万年間の東アジアの環境変遷の詳細な枠組みを明らかにするため,中国では南東部の長江デルタにおいてボーリングコア採取を含め現地調査を行ったほか,長江中流部において洪湖湖底コアを採取した.これらコア試料について、帯磁率、土色分析をはじめ、珪藻分析、花粉分析、有孔虫分析などを進めた。特に長江デルタにおいてはアイソトープステージ3〜5の堆積物を覆うレス堆積物の分布がデルタ全体の発達過程を考える上で重要なポイントになるため,この地域のレス-古土壌-シークエンスについてもOSL年代測定と共に高分解能の土色,帯磁率,粒度分析等を進めた. 日本列島においては佐賀平野において,海岸から内陸にかけて位置する数木のオールコア試料から多数の層準で良質な年代試料を採取し,AMS法による年代決定を進めた.北海道利別川低地においても,新たにオールコア試料を得,年代測定を行った.これにより沖積層全体の年代観が得られ,海進の楔を捉えることが出来た.関東平野においては,新たな試料のAMS法年代測定を行ったほか,測定済みの試料について安定同位体分析を加え,較正年代に基づく海面変動曲線の確立への見通しを得た. 同時にこれらのコア試料について珪藻分析や花粉分析等の古環境分析を進めている,以上の結果は,暦年較正年代に基づく東アジアの環境変遷の標準的枠組みを打ち立て,グローバルな環境変動の波及過程を検討する上で,各地で有望なデータが集積しつつあることを示している.特に,完新世海進の始まりの前後からピークに至る過程と,ピーク後の過程をこれまでになく高精度に解明できる見通しが得られたといえる.
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