粘土鉱物の分布パターンと擬似土壌溶液の熱力学的考察より、湿潤アジアにおける鉱物風化について以下の点を明らかにした。相当程度風化の進行した土壌においては、土壌中の2:1型鉱物の給源として母材中の二八面体型雲母が重要である。比較的酸性程度の弱いタイ土壌においては、雲母は膨張性2:1型鉱物を生成することなく、直接カオリン鉱物に風化するものと見られる。一方酸性強度の大きいインドネシアおよび日本では、中間生成物として膨張性2:1型鉱物が多く生成されると考えられる。 このようにして生成された高荷電性膨張性2:1型鉱物は、とりわけ強くCsを吸着固定する。さらに雲母鉱物の末端破壊部(FESサイト)もCsを吸着しうる。タイ、ウクライナ土壌のCs吸着容量は一般に小さいが、このようなFESサイトの多寡により変化する。Cs吸脱着実験より、FESは溶液濃度と独立にCsを吸着するのに対し、膨張性2:1型鉱物層間は、ある程度濃度依存的にCsを吸着する。ここまで述べたような土壌のCs吸着特性は、2:1型層間での重合体Al水酸化物の生成や雲母鉱物の風化といった土壌生成要因によって変化する。 このように高荷電性膨張性2:1型層間は、最も強くCsを保持する。これは日本で通常見られる鉱物であるが、幸いなことに日本ではほとんどが層間Alによって修飾されている。また溶液のイオン強度を上げれば、いったん吸着されたCsも再脱着させることが可能である。ここに、日本あるいはインドネシア土壌においてファイトレメディエーションの手法を適用する余地がある。一方雲母鉱物のFESサイトは溶液イオン強度の変化によっても固定Csを放出しにくいので、ウクライナおよびタイ土壌において雲母鉱物が多く存在する場合、いったん固定されたCsを除去するのは困難であると見られる。
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