研究概要 |
マングローブは熱帯、亜熱帯の感潮帯に生育する樹木群で、その森林面積は世界全体で2億ヘクタールを占めるとされる。本調査ではベトナム戦争による攪乱後、天然更新によって回復しつつあるベトナムののマングローブ林において、その生態系の構造を調べ、更に分子集団遺伝学的方法を用いて構成樹木集団の遺伝的変異を解析し、環境適応の様子と、更新の動態を解明する。これにより、天然更新のメカニズムを最大限に利用したマングローブ林生態系の再生修復の方法を検討する。 1.生態生理学的研究 生態観察プロットを、北部ベトナム紅河デルタ内のNamDinh地域に設定した。同地域内で、林齢、潮汐頻度、種組成の異なる5カ所を選び、20m×20mのプロットを合計5個設置した。各プロットで、樹種、直径、樹高の毎木調査を実施し、種組成と林分構造を解析した。また、各プロット内3カ所で、深さ1mまで10cmおきに土壌サンプル、根サンプルを採集し、炭素、窒素などの定量分析をおこなっている。以上の結果より、林齢、潮汐頻度、種組成などの各要因と、現存量、養分蓄積量との関係を比較検討し、マングローブ林の更新動態を解析中である。また、アビセニア属、ソネラチア属、キャンデリア属のマングローブ植物を愛媛大学構内の温室で栽培し、各樹種の生態生理特性についても解析中である。 2.DNAの抽出と遺伝的変異の解析 北部ではQuang Ninh省Don Rui、Thai Binh省Ramsar、南部ではHo-Chimin市近郊のCan Gioで標本採集を行った。北部2集団は天然性林であり、南部Can Gioはベトナム戦争の枯葉作戦で枯死した後、天然更新したものである。採集したマングローブ樹種はRhyzophorastylosa, R.apiculata, R.mucronata, Kandelia candel, Bruguiera gymonorrhiza, B.cylindorica, Sonneratia caseolaris, S.ovata, Agiceras corniculataum, Luminitze racemosa, Avicenia marina, A.alba, A.officinalis, A.lanataで、各種を各集団ごとに30個体程度を採集した。これらについてDNAの抽出を行い、Avicenia属各種およびKandelia candelについては現在AFLP解析を行っているところである。また葉緑体にコードされるMatK遺伝子を含む約3kbの領域について、北部、南部の集団での配列変異を解析中である。
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