研究概要 |
本課題ではアジサイ属、ホトトギス属、オウレン属、アセビ属、コハクラン属、サルスベリ属について分子系統と地史データと総合した分布域形成について研究をまとめた。新生代第三紀末から第四紀にかけて繰り返された氷期・間氷期の中で、北半球温帯域における植物の分布は大きな影響を受けている。オウレン属では温帯生のグループが東アジアと北米の間で大きく隔離を受けた一方で、亜寒帯生のグループではベーリング海峡やアリューシャン列島の陸橋を最終氷期(約2万年前)に至るまで相互に移動し、遺伝子流動が可能であった形跡をDNA分子データで確認した。また、アジサイ属など5属では、中国南部〜台湾〜琉球列島〜日本列島に至る島嶼系に於いて島嶼間分化がDNAレベルで進んでいた。この分化は大陸側の種分化に比べて短時間に急速に進行したものと推定された.また、氷期・間氷期における島嶼系の隔離と陸橋の形成に伴う分布域の北上と南下、島内部における高標高域への高地への逃避と低地への分布域回復の形跡を確認することが出来た。東アジアと北米のどちらの地域に原始的な種が分布しているかの問題については,いずれのケースも東アジアであることが見いだされた.東アジアの種の中でも,その最基部に位置するのは中国雲南省から四川省にかけて分布する種であった.東アジアに広域に分布する種の場合には,雲南省西部においてDNA上のギャップがあることを見いだした。これは日華植物区系要素の研究では全く提唱されてこなかった新発見であり,現在は広域分布種を対象にしてこの地理学的なギャップをDNA分子で把握するプロジェクトを開始した.研究当初は日本列島と中国大陸の間を想定していただけに、この結果は想定外の発見であった。
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