都市化にともなう公害ならびに都市貧困層の問題は、世界共通のものである。特に東南アジアの首都圏においては深刻な問題を抱えている。マニラ首都圏は人口の集中が激しく、排気ガス公害の住民の健康への影響が大きいとえられているが、それ以外にも首都圏から出る膨大な量のごみと、その廃棄場でごみさらいをして生計をたてている住民の問題がある。そこで、都市の抱える問題の一つのモデルとして、マニラでの公害の遺伝的影響のモニタリングを行うこととした。第一次調査では、ごみ廃棄場に10年以上住む人々並びに対照群として一般マニラ市民の血液細胞を培養して解析し、染色体レベルの異常(姉妹染色分体交換)が高度に上昇していることを明らかにした。ごみ廃棄場の住人においては、姉妹染色分体交換を誘発するような種類の化学変異原に高度に曝されていたと考えられる。その後、第一次調査区域は閉鎖され、住人は同じごみ廃棄場内の別の新たに造成された区画へと移転させられた。そこで第二次調査では、その住人を調査した。結果は前回調査と異なり、姉妹染色分体交換の有意な上昇は見られなかった。この原因のひとつとして、新居住地区にまだ廃棄物が少なく、移転後の2年間で変異原への被曝が低減したことが考えられる。一方、別種の対照群として、ミンダナオ島南部の鉱山労働者(既知の各種化学物質に汚染された集団)や、山地で隔離し貧困で栄養状態が劣悪な集団についても採血を行った。鉱山労働者では、ブレオマイシン添加後の染色体構造異常の上昇がみられた。化学物質に対する代謝系遺伝子(の集団差が遺伝毒性に対する反応の違いに関連することもかんがえられる;のでDNAを用いて、代謝系の遺伝子(GSTP1、NAT2など)の集団差についてもゲノムレベルでの解析を進めた。
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