研究課題
世界の稲作生産において、天水田は面積で約50%を占めるが収量では約20%にとどまっている。天水田稲作の低収量・不安定要因はほとんどが水の問題に起因する。すなわち、不透水土である硬盤層の存在が下層から作土への連続した水移動にとって大きな抵抗となり、硬盤層の下層土壌が比較的高い水分を保持しているにも関わらず、乾期に作土層が著しく乾燥する。本研究は、このような土壌条件下で、硬盤層下層に存在する水分の獲得能に優れる作物品種・系統をフィールドで探索するための方法論を確立すること、そして下層に存在する水分の獲得能を発揮させるための作物の形態的・生理的基盤に関する知見を得ることを目的とする。本年度は、バングラデッシュ北西部Rajshahiにある天水田稲作地域に赴く予定であったが、アメリカ同時多発テロに端を発した政情不安のため、現地に赴くことができなかった。しかし、現地圃場から硬盤層上層および下層からそれぞれの水サンプルを採取することができ、現在それらサンプルの水素同位体自然存在比(δD値)の解析を進めているところである。この解析を通じて、調査対象圃場における硬盤層を境にした、明確なδD値の違いが存在するかを確認する。また、ザンビアにおける調査では、地下水と降水のδD値を解析した結果、地下水のδD値は季節変動がなくほぼ一定の値で推移したのに対して、降水のδD値は大きな変動を示すことが明らかとなった。さらに、現地で栽培されている作物からも導管水を採取してδD値を解析したところ、導管水δD値の変動には降水の影響が認められる一方で、作物体が降水だけでなく地下水も吸収していること、しかも個体によって地下水に対する依存度が異なることも確認した。この結果から、作物導管水のδD値を周辺の環境水のδD値と比較することで、その個体の深層水利用能を評価できる可能性が示唆された。
すべて その他
すべて 文献書誌 (3件)