研究課題
土壌深層に存在する水分の獲得に優れる作物個体・系統を、フィールドレベルで探索する方法論として、作物導管に含まれる水分子の安定同位体比解析の有効性を検証するとともに、深層水分獲得に優れる作物の形態的・生理的特徴の把握を目的とした。ザンビアにおける調査で、地下水と降水の水素同位体自然存在比(δD値)を解析して次の結果を得た。すなわち、深層水δD値は季節変動がなくほぼ一定で推移するのに対して、降水δD値は大きく変動した。さらに、栽培作物から導管水を採取してδD値を解析したところ、降水δD値の変動に伴って導管水δD値も変動することを確認した。しかし、その変動パターンは作物種によって異なり、ある種は常に深層水δD値に近い値で推移した。この結果は、根を同様に深くまで発達させた個体であっても、深層水への依存度が種によって異なることを示唆している。さらに、根の内部形態を調べたところ、深層水依存度の低い種では皮層に細胞間隙が発達するのに対して、依存度の高い種ではそれが発達していないことがわかった。以上の結果から、作物導管水のδD値を解析することで、その個体の降水や深層水の利用能を評価できること、さらに深層水分獲得能が根の内部構造に規定される可能性を明らかにした。また、深根性作物が深層水をくみ上げて、それを隣接する植物に供給する現象(hydraulic lift)を、耕地生態系で初めて確認することにも成功した。さらに、この現象を促進するには遮光処理が有効であることも立証した。この思わぬ成果から、植物を灌漑手段として活用する、という全く新しいコンセプトを打ち立てた。すなわち、これまでもっぱら水を与えられる受動的存在としての植物に、ポンプおよびスプリンクラー機能を能動的に付与することを意図するものである。このアイデアは、植物の利用価値を新たに開拓するものと位置づけられる。
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