研究概要 |
2001年、2002年の夏、トルコ東部及び中部でネギ属野生種Allium tuncelianumを収集した。この種は1996年にイギリス、キュー植物園のDr.B.Mathewがニンニク(A.sativum)の祖先種の可能性を示唆した新種で、トルコ固有種である。 まず、ニンニクと交雑した。収集したA.tuncelianumの発芽前の球根を低温処理し、発芽及び生育を促進した。無処理より早く生育させ、ニンニクの開花時期に合わせて開花させたA.tuncelianumにニンニクの花粉を受粉し、受精を図った。子房は少し肥大したが結実には至らず、前年の逆交雑と同様な結果となった。なお、A.tuncelianumの自家受粉では種子も得られ、種子発芽も見られた。この結果、A.tuncelianumはニンニクと非常に近い種ではないことが推定された。 次に、RAPDで系統樹を作成した。収集したA.tuncelianum、A.macrochaetum, A.atroviolaceumの他A.longicuspis, A.ampeloprasum, A.truncatum,、ニンニク、リーキ、その他の近縁種を用いて、昨年に引き続きRAPDマーカーにより多型を検出し、系統樹を作成した。供試プライマーを増やして系統樹を作成したが、大きくは2つのクラスターが形成された。A.tuncelianumはA.macrochaetumに近く、A.atroviolaceumにはやや遠かったが、これらで1つのクラスターを形成した。ニンニクを含むその他の種でもう1つのクラスターを形成し、ニンニクは同種と考えられているA.longicuspisに非常に近く、A.ampeloprasumに含まれるリーキやGreat-headed garlicに近いことが推察された。従って、A.tuncelianumとニンニクはRAPD分析でもそれ程近くないことが示唆された。 A.tuncelianumは同じくトルコで収集した野生種A.macrochaetumから新たに分けられた新種であるが、核型も近かった。一方、ニンニクとは染色体数(16)は同じだが、2種類の付随体染色体の数その他がニンニクと異なり、ニンニクは独特の短い次中部動原体染色体2本を持ち、やや核型が異なった。これらからA.tuncelianumはニンニクに極く近縁な祖先種ではないと推定される。
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