研究概要 |
本研究課題においては明瞭な年輪構造を持たないとされる熱帯樹木について、木部形成の1年内の変化を追跡することから成長輪形成の特徴についての知見を得ることが目的である。特に外的条件として重要と判断される水分状態との関わりに注目して研究をすすめた。タイ、マレーシアに設定したフィールドにおいて2年間の調査・実験を行った(本報告書ではタイにおける結果について述べる)。試料木として、Hopea odorata, Hopea ferrea, Eucalyptus camaldulensis, Tectona grandisを用いた。木部形成については肥大成長追跡(バンド式デンドロメーター)、刺針法による形成層位置の印付けを、また水分条件に関しては、葉の水ポテンシャルの測定を中心に行った。成長輪界は原則として雨季の終わりから乾季にかけて形成されていた。しかし詳細に観察すると、たとえばT.grandisにおいて、雨季においても降水量の低下が起こると弱い成長輪が形成されていた。水分条件が敏感に影響し、その結果木部に成長輪構造を残したことになる。フタバガキ科のH.odorata,H.ferreaを比較したところ、前者では水ポテンシャルが1年中比較的高く、雨季の始まりに伴ない木部形成が開始した。一方後者の木部形成の開始は前者より2ヶ月遅れた。これはH.ferreaにおいては乾季の水ポテンシャルが極めて低く、雨季の開始後、木部形成に必要な水ポテンシャルの回復に時間を要した結果と推定された。一方刺針法において、傷害組織の接線方向への広がりが、とくにフタバガキ科樹種において広く、接線方向の2点間の距離について、再検討することが指摘できた。今後の課題である。
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