研究概要 |
インドネシア国・西チモールのクーパン郊外に新たに建設されたダムがもたらす環境変化が病気を媒介する動物、特に蚊の種類・数・季節的消長に及ぼす影響を調べた。調査はダム建設が開始される直前に開始され、ダムと付随する灌漑システムの建設と新しい灌漑水田の造成が始まるまで、継続された。 川のダム上流域はダム湖になった結果、緩やかな流れの縁にすむ蚊幼虫のすみ場所は消滅した。新たに出現したダム湖では川に生息していたグッピーや新たに放流された魚が繁殖したため、蚊幼虫の発生は少なかった。ダム下流域は流量が減ったため揺やかに流れる部分が増えたが,乾季でも人為的放水による水位変動があるため,不安定性が増した。ダムから水田に至るコンクリート護岸水路は、水流があれば蚊の発生場所にはならないが、流量が減った時には、蚊幼虫に適した水たまりができた。山間部の水路脇に造成された泥受けには水が停滞し、蚊幼虫の発生場所になっていた。新たに造成された灌漑水田では、蚊が一年中発生できるようになり,幼虫密度も高かった。灌漑用水はダム底からフィルターを通って取水されるため、完成直後の新水路や新水田には魚がいない。魚を人為的に導入すれば、蚊発生を抑制する効果が期待できる。建設工事関係者が去った後に破壊された建築物や放置された機械に雨水がたまり、蚊の発生場所になった。西チモールで今後に予定されている灌漑開発における媒介動物対策を確立する基礎資料として、河川におけるグッピーやメダカの分布やクマネズミの寄生虫相を明らかにした。 潅漑開発は新たな蚊の発生水域を生むが、適切・不断の改修や管理により蚊発生の危険性を除去することができる。潅漑開発は水域を増やしてマラリアのような媒介病の危険性を増やすという一般的な認識は一面的で、灌漑開発によって蚊の発生を管理できる体制ができるという積極的な面も評価する必要がある。
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