研究概要 |
今年度は,既に先天性感染シャーガス病児を出産した母親の末梢血液中にTrypanosoma cruzi(T.cruzi)が存在するかどうかを,P.C.R法,Xenodiagnosis(媒介体診断)を用いて検討した.それと同時に,先天性感染シャーガス病と診断された新生児に関しては,Benzonidazolによる治療を行ない,その治療効果判定にも母親同様に,P.C.R法,Xenodiagnosisを実施した。 その結果,T.cruzi慢性感染の母親12/14人(85.7%)からT.cruzi虫体が証明され,このようにT.cruziの感染が明らかであるが,臨床的には無症状の慢性感染婦人達が,本疾患のキャリアーであることは疑いの余地が無い.このように先天性感染児を出産した母親の多くはT.cruzi虫体が妊娠経過中も血中に存在し,臍帯血,胎盤を通じての胎児への感染が充分に考えられる.このようにXenodiagnosis陽性を示した母親の中には第一子(先天性感染シャーガス病と診断)を6ヶ月で失い,続く第2子(3ヶ月)についてもP.C.R陽性であったため,現在Xenodiagnosisで検討中のケースもある.シャーガス病の主ベクターであるTriatoma infestans見なくなった環境に生活しても,慢性感染の母親が未治療のまま妊娠をすることは,本疾患児の出産を容認することである.しかし,一方でT.cruzi抗体陽性でもT.cruzi虫体を血中に保有することなく正常に出産を迎える者も数多く居るため,これらの本疾患における病態の差異は慢性感染母親の生理状態,免疫能など複雑な宿主依存性なのか,虫体依存性なのかも検討する必要が生じてきた.そこで我々は今までに行なったXenodiagnosisで得られたT.cruzi虫体についての生物学的性状の検討を,アイソザイム解析を行ない,その結果,ボリビアのサンタクルズ周辺に分布する虫体はT.curuziの3グループの中でもGroup-3に属し,しかもGroup-2とのハイブリツド型Group-3aであることが強く示唆される結果を得た.今後もこれら本疾患患者,キャリアーに見られる病態の差異とT.cruzi虫体との関連について詳細な検討を継続する.
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