研究概要 |
アジア諸国に蔓延する薬剤耐性マラリアのエビデンスを捉え、その治療法開発に関する研究の展開を目的として、以下の結果と考察を得た。 1.in vitro薬剤感受性試験によるエビデンス (1)タイ・バンコクのマヒドン大学熱帯医学部附属病院の検査室及びミャンマーとの国境近くの同大学フィールドステーションに、我々が開発したin vitro薬剤感受性試験システムを設置し、熱帯熱マラリア原虫のin vitro試験を行ったところ、クロロキンには100%耐性、メフロキンは約50%の耐性を示した。 (2)フィリピン・ミンダナオ島で、32検体の感受性試験に成功し、クロロキン耐性株の拡散を初めて証明した。メフロキンへの耐性は未だに軽度であった。 (3)ラオス南東部サラワン県で小規模パイロットスタディーを行い、9検体の薬剤感受性試験を行い、クロロキンに4検体耐性、メフロキンは全検体感受性の結果を得た。 2.臨床治験によるエビデンス マヒドン大学熱帯病病院で、薬剤耐性マラリアの多剤用療法(Artesunate+Mefloquine, Artesunate+Lumefantrine, dihydroartemisinin-napthoquine-trimethoprim(DNP【○!R】),artemether-lumefantrine(Coartem【○!R】))を試み、合併症の伴わない熱帯熱マラリア患者に極めて有効であることが判明した。 3.薬剤耐性遺伝子の解析によるエビデンス (1)フィリピンで採取した原虫のDNAを抽出して薬剤耐性遺伝子の解析を行った。pfcrt及びpfmdr遺伝子の点変異を調べたところ、8割を越える原虫にクロロキン耐性のマーカーが発現されていたが、タイで採取した耐性遺伝子配列とは異なるパターンを示した。 (2)さらに、ミンダナオ島、パラワン島、およびルソン島からそれぞれ検体を採取し、耐性関連遺伝子の解析を行った。その結果、それぞれの島における原虫のgenotypeは異なったタイプを示し、パラワンはベトナムなどの大陸型、ミンダナオはパプアニューギニア型を示した。薬剤耐性マラリアの地域限局的な疫学様相が理解された。 以上、薬剤耐性に関わる指標を種々得ることで、アジアに蔓延する薬剤耐性マラリアの対策につながる基礎的な研究成果の構築ができたものと考えられる。
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