研究概要 |
シンガポールの調査では新生児溶血性黄疸におけるG6PD欠損症の遺伝子変異について検討し、この地域のG6PD欠損症の主要な変異部位は12ヶ所であることが明らかになった。しかし、約10%の検体でG6PD酵素活性の低下が認められたにもかかわらずエクソン部分およびプロモーター領域に変異が存在しなかったことから、今後イントロン部分の検討が課題として残された。マレーシアの調査では北部マレーシアのG6PD欠損症の頻度は約3.3%で、変異部位はシンガポール在住のマレー人とほぼ等しいものであった。また、新生児溶血性黄疸の46%はG6PD欠損症が原因である可能性が高く、G6PD欠損症が周産期医療に重要な疾患であることが示された。東南アジア型楕円赤血球症(SAO)の頻度は4.8%で、この遺伝子異常を持つ人は高頻度(81.8%)に遠位尿細管性アシドーシス(dRTA)の状態であったことから、SAOがdRTAの発症に関与することが示された。ネパールの調査ではマラリア抵抗性遺伝性因子としてα^+サラセミアの頻度が高く、G6PD欠損症、ASOおよびβグロビン異常症の頻度は低いことが確認された。しかし、α^+サラセミアもカトマンズ周辺に居住する主要4民族(Brahmin,Chhetri,Newar,Monogolian)でその頻度が20%前後、マラリア汚染地域と考えられるタライ平原の住民の調査においても同様に15%前後であったことから、これらの地域においてマラリアが流行する背景となっていることが示された。一方、マラリア高度汚染地域に居住する少数民族であるDanuwarの調査ではα^+サラセミアの頻度が75%、G6PD欠損症の頻度が3.1%であり、マラリアに対して生物学的に適応していることが示された。
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