研究概要 |
最近、欧米ではAZTをはじめとする強力な薬物療法の中断等より、HIV初感染、未治療者における薬剤耐性ウイルスの存在が問題となっている。本研究は,アジアの中でも特に、推定HIV感染者数が世界最大とされているインドと、その隣国にあって未だHIVの浸淫状況の情報に乏しいイスラム国パキスタン,および日本と経済的、文化的交流の盛んなベトナムにおいて、HIV初感染、未治療者におけるHIV薬剤耐性ウイルスの浸淫状況を調査し、これらウイルスの遺伝学的特徴(genotype)と感染性(phenotype)および種々の薬剤に対する感受性を解析し、発展途上国における将来の薬物治療などのAIDS対策に重要な基礎的および臨床的データーを提供する事を目的とする。 現在までに、インドで採取された異性間性的接触により感染した初感染、未治療患者17例について解析し得た。注目すべき所見として、プロテアーゼ阻害剤に対する耐性に大きく影響を及ぼすと考えられている1次置換(48番目のグリシンがバリンに、82番目のバリンがアラニンに)が2例(12%)にみられ、これらはHIV感染当初すでに、サキナビル、インジナビル、リトナビルに対する多剤耐性を意味するものである。臨床的にサキナビルの単剤大量投与を受けた患者では、高頻度にG48V変異がみられ、引き続きV82Aの変異が起こる事が知られており、この2例のケースはこのようなエピソードを持った患者から伝搬された可能性がある。 ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤に対する耐性変異は見られなかったが、非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤であるネビラピン及びデラビジンに対する弱い耐性を示す変異(135番目のイソロイシンがチロシンまたはバリンに)を5例(29%)に認めた。これらの変異は非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤が米国で認可されて間もない1996年に採取された検体からも高頻度にみられることから、自然多型と考えられる。 現在、パキスタンおよびベトナムおける、耐性変異の状況を解析中である。
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